脳卒中治療ガイドラインでは維持期の脳卒中患者にもリハビリの機会を設けることが望ましいとあるが、病院レベルのリハビリを受けていないのが現状である。今回、退院後もセラピストによるリハビリを受けた場合、歩行どのような影響を及ぼすのか調査することにした。
〈研究背景〉 ・脳血管疾患総患者数…117万9000人 (厚生労働省「平成26年患者調査の概況」) ・年間発症者数29万人 (滋賀県脳卒中発症登録事業) 医療保険、介護保険、保険外リハビリ
脳梗塞リハビリセンターでは、鍼灸師・理学療法士・トレーナーによる個別リハビリを2時間行う。脳血管疾患リハビリテーション算定期限である180日を超えても、「時間をかけてリハビリをしたい」という維持期脳卒中患者が多く利用。
〈目的〉 脳卒中治療ガイドライン(維持期リハビリテーション 291-293)では “維持期(退院後)においてもリハビリテーションの機会を設けることが望ましい” という記載があるが 現実として、退院後も入院時同様にセラピストのリハビリを受けている方が少ない。 また脳梗塞リハビリセンターのような「2時間以上」1対1で セラピストによるリハビリを受けられる施設が殆ど無い。 そこで、脳卒中治療ガイドラインのように 退院後、障害が安定し、ご自宅で生活をされている脳卒中患者も(維持期) 1日2時間セラピストによるマンツーマン歩行リハビリを受けた場合 ①歩行速度・②非麻痺側歩幅・③歩行周期に及ぼす影響を調査することにした。
〈これまでに行った研究〉 障害が安定し、ご自宅で生活をされている脳卒中患者(維持期)における歩行周期の特徴 〈結果〉脳卒中患者の歩行は… ・麻痺側の脚をあまり使っていない ・健常側の脚ばかりを酷使している
〈対象〉 ・脳卒中発症から6ヶ月以上経過した方 ・杖なしで10m以上歩行が可能な方 【性別】男性:13名、女性:2名(計15名) 【年齢】平均60歳(範囲:38歳〜76歳) 【麻痺側】右麻痺5名、左麻痺10名 【下肢Brunnstrom stage】Ⅲ〜Ⅵ
〈リハビリ内容〉 ・鍼灸師:50分 →醒脳開竅法・頭皮鍼・山本式新頭鍼療法・パルス鍼 ・理学療法士:40分 →理学療法士による動作指導・促通手技を用いた・トレーニング ・ダブルベルトトレッドミル(spritR)10分 →左右のベルトが独立して駆動・理学療法士による歩行分析 ・トレーナー: 20分 →スミスマシンやバーベルを用いた高負荷トレーニング 〈介入頻度〉 ・1回2時間 ・週2回の利用×4週
〈研究方法〉 自由歩行(杖なし)の様子を動画で撮影 〈使用機器・ソフト〉 ・カメラ:Q1615 MkⅡ(AXIS社)120 fps にて撮影 ・動作解析ソフトKinoveaにて ・歩行速度、歩行周期を解析 〈統計処理〉 介入前後でWilcoxon符号付順位検定にて比較 (GraphPad Prism8) 有意水準をp < 0.05とした 書面及び口頭にて十分な説明を行い、同意を得て行った。 (承認番号:19-003)
〈結果〉歩行速度
通常時の歩行速度が有意に速くなった
※有意…確率論・統計学の用語で「確率的に偶然とは考えにくく、意味があると考えられる」こと
〈結果〉歩幅
健常側の歩幅が大きくなる傾向
〈結果〉歩行周期変化
・麻痺側単脚支持期(非麻痺側遊脚期)が長くなる傾向
・麻痺側前遊脚期が短くなる傾向
麻痺側の脚も使って歩く方が増えた
〈考察①〉
片麻痺患者の歩行速度と時間因子の関係
①麻痺側単脚支持時間は歩行速度と非常に強い正の相関
②麻痺側前遊脚期時間は歩行速度と非常に強い負の相関
(田中惣治ら:麻痺側立脚期の膝関節の動きによる片麻痺者の歩行パターン別の時間因子の分析. 2018)
・麻痺側単脚支持時間延長
・麻痺側前遊脚期時間短縮
→歩行速度の向上
〈考察②〉 片麻痺患者の非麻痺側歩幅と機能障害の関係 ①麻痺側下肢の支持性 (膝関節伸展筋力,股関節内旋筋力) ②両側股関節・麻痺側足関節可動域 (両側SLR,麻痺側股関節伸展,足関節背屈) (篠塚敏雄ら:慢性期脳卒中片麻痺者の歩行速度・非対称性と機能障害の関連性. 2017) 『麻痺側支持性向上関節可動域拡大』→『麻痺側単脚支持期延長』→『非麻痺側歩幅拡大』
〈まとめ〉 維持期脳卒中患者に対する歩行改善に向けた 積極的リハビリの介入は 歩行パラメータ(歩行速度,歩幅)の改善を 示唆する結果が得られた 維持期脳卒中患者に対する2時間の個別介入は ①歩行速度や非麻痺側歩幅を改善する可能性 ②歩行特性である単脚支持期短縮及び前遊脚期延長の修正に寄与する可能性